田中 涼子さん
三原市立三原小学校
教諭
※本インタビューは、2021年4月に行ったものです。
教員や子どもたちと一緒に考え進む
よりよい教育をめざして
2017年 大学院国際協力研究科(IDEC)博士課程前期修了
プロフィール:2006年安田女子大学文学部児童教育学科(現教育学部)卒業後、小学校教諭として6年間勤める。2012年、現職派遣で青年海外協力隊に参加。帰国後1年間勤務して休職し、2015年広島大学大学院国際協力研究科(IDEC)へ進学。大学院2年目で復職。小学校での勤務を続けながら2017年に同博士課程前期を修了。現在も広島県三原市の小学校教諭として勤務。
本インタビューは…2021年4月に行ったもので、所属先はその時点のものです。
教育課題への向き合い方は、途上国も日本も同じ
学生時代から国際協力に興味があり、小学校教諭を6年間経験してから青年海外協力隊としてカンボジアの教育支援に携わりました。約2年間の派遣が終わって、日本の学校現場に戻りましたが、カンボジアで精一杯活動した達成感の一方で、「あと少し、何かが必要なのでは」という心残りもありました。
もっと専門的に学べば、より効果的な支援ができたのではという思いから、広島大学大学院国際協力研究科(現国際教育開発プログラム)へ進学。子どもたちの学びをサポートする立場である以上、自分自身も学び続ける教師でありたいという気持ちにも背中を押されました。
青年海外協力隊の時は、現地の先生方に思いが伝わらなかったり、意見を聞き入れてもらえなかったりすることに疑問を感じることがありました。しかし、大学院で研究者として課題に向き合うと、そこには文化的、歴史的な背景に加えて、個人的、環境的な要因があったのだと分かりました。
たとえば、体育科の授業実践に対してあまり主体的でない教員には、自身が体育科教育を受けた経験がないことや、学校安全にかかる制度がきちんと整備されていないこと等が影響していました。一人一人に寄り添い、個々人が抱えている課題を明らかにし、解決方法を一緒に考える研究の方法は、一方的な知識の伝達ではなく、一緒に考えながら進んでいくという点において、教育の在り方ととても似ていると感じました。
世界の子どもたちを幸せにする教育を
修了後も引き続き小学校教諭として勤務し、学級担任や研究主任を務めました。研究というと大学で行うものというイメージが強いですが、学校現場でも教育研究は行われています。学校全体で取り組む課題を設定し、達成に向けて学校のみんなで研究に取り組みますが、全員が同じ方向性で研究を進めるのは簡単なことではありません。
一人一人に合うアプローチを模索して研究の推進に努めました。協力がうまく得られない時や思うように研究が進まない時は、「何が障壁となっているのだろう」と大学院で研究に取り組んだ時と同じように考えを巡らせました。現在は、この経験を生かし、「探究的な学習の在り方に関する研究推進地域事業」の研究推進リーダーを務めています。これまでにない新しい取組にリーダーとして関わることができ、責任とやりがいを感じています。
かつて青年海外協力隊として国際協力の世界へ飛び込んだ時、私を突き動かしていた「世界の子どもたちの幸せに貢献したい」という思い。当時は、教育制度の整備がまだ十分でない国の支援が優先と思っていましたが、教師として現場に戻った今は、日本の教育にも課題があるのではと感じています。なぜなら、日本の子どもたちは学ぶことに対して受け身な子が多いからです。世界の中でも恵まれた教育環境であるにも関わらず、子どもたちが主体的に学んでいるとはいえない日本の状況を見て、子どもたちが楽しく、主体的に学ぶことができる教育をめざしていくことが、今求められているのではないかと感じました。
日本においても途上国においても、教育で課題となるのは児童・生徒や教員の「主体性」ではないかと考えています。まずは教育研究を通じて、先生方や子どもたちと一緒に考え、日本の子どもたちが主体的に学べる授業をつくっていきたいと思います。教育への関わり方はひとつではないので、今後最適な方法があれば、教員という枠にとらわれずに、教育に関わる様々な立場を視野に入れながら仕事に挑戦していくつもりです。